ノックス第2条。探偵方法に超自然能力の使用を禁ズ。

“窓が降雨後に開かれたことはない”


“金蔵が存在しない”


親族会議以前に、ヱリカ、譲治、朱志香、真理亞、南條、郷田、熊沢は、屋敷より退出し、ゲストハウスへ移動したものなり。


残りは、蔵臼、夏妃、源次の3人のみが2階廊下におり、それ以外の全員は食堂におりしこと、申し上げ奉る。

客間にいなかった、蔵臼、夏妃、源次の内の誰かが、その直後に隙を見て手紙を置いただけのことでしょう。

屋敷は施錠され、外部の人間は入れなかったそうですが、ゲストハウスに戻ったふりをして、屋敷内にこっそり隠れていた人間がいたなら、その人物が手紙を置いたとしても何ら問題はありません。

まず、ノックが、確かに食堂の扉を叩いたものなのか疑えます。例えばですが、屋敷の構造上、2階の特定の柱を叩くと、音が柱を伝わり、食堂の人間は、あたかも扉をノックされたかのように誤認してしまうとか。

あるいは、偶然、何かの音をノックと聞き間違え、同様に誤認してしまうとか。あるいは、ノック音を録音したテープがこっそり再生されていて、それがちょうどあのタイミングで聞こえるように細工されていたのかもしれない。

蔵臼、夏妃、源次の3人は、その手紙に触れてさえいない!

紗音、嘉音が給仕に訪れて、扉を閉じる瞬間に、最後に食堂に入った最後尾のニンゲンは誰・・・? 例えば嘉音とか。最後尾の嘉音が、扉を閉める時に、こっそりぽとりと手紙を落とせば、簡単じゃない。

食堂の全員の誰も、いいえ、もっとシンプルな言い方をするわ。24時の時点で屋敷内にいた誰一人! あの手紙を廊下に置いた者はいないわ。

24時の時点で屋敷外に存在した何者かが、予め手紙を廊下以外の場所に置いたのよ。そして、何らかの方法でそれが移動して、最終的に“廊下に置かれた”。

仮の想像ですが、例えば、使用人たちが押してきた、お茶の道具を積んだ配膳車の下部の裏側に貼り付けられていたとか。それは時間が経てば剥がれてしまうような、簡単な接着。それはやがて剥がれ落ちて、存在しないはずの“魔女が置いて行った手紙”となる。つまり、時間差で手紙が現われるようにすることで、真の差出人がその時刻にアリバイを作ろうとする、古典的なトリックです。

蔵臼、夏妃、源次の3人は、ノックをしていない!


これは、扉だけはノックしていないという、限定的な意味じゃないわよ? 音が伝わる柱だろうと録音したカセットテープの再生ボタンだろうと、そのノック音を生み出したことは断じてないという意味! 無論、直接的にも間接的にも、意図的にも偶発的にも、無意識的にもね!


蔵臼、夏妃、源次たち3人以外の誰かがノック、あるいは、ノックと誤解させる音を発生させたのかもしれない。


24時の時点で、2階廊下にいた、蔵臼、夏妃、源次の3人と、食堂にいた全員以外の、一切のニンゲンは屋敷内に存在しなかった

蔵臼、夏妃、源次の3人に加え、食堂の全員もまた、ノックしていないこと、申し上げる。このノックとは、ノック音を生み出す、直接的、間接的、意図的、無意識的、偶発的な全てを含めるものなり。

つまり、屋敷にいた人物全員が、ノック音の発生源とは成り得ない、という意味デス。・・・・・・・そしてこの“全員”とは、誰も把握していない、観測されていない人物であったとしても含みマス。

この古戸ヱリカが、カセットテープにノック音を録音し、それをどこかにこっそり仕掛け、ちょうど24時頃に再生されるような仕掛けを施したなら? もちろん、24時の時点では屋敷にはいないわけです。

屋敷内の誰一人、手紙を廊下に置いた者はいない






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